自転車のカゴに荷物をいっぱい詰め込み、背中を異常なまでにかがませる姿は、田舎でよく見た野良仕事で背中が曲がったおばあさんを連想させる。
朝早くから夜遅くまで自転車を押し、地域のあっちこっちに毎日出没する。原色の衣服をまとい帽子をかぶり、前かがみで歩き、時として立ち止まり、自転車のベルをチリンチリンと鳴らす。
滑稽な姿との思いは失礼だが、そのベル音はどこか哀愁を誘う。それがいつの日からか乳母車に変わり、自転車のベルを手に持ち、チリンチリンとやるようになった。噂では自転車が盗難にあったと聞く。
これも噂話ではあるが、チリンチリンおばさんが、毎日毎日町中を徘徊するのは、最愛の息子を亡くしたことに端を発したらしい。そのおばさんが、私の記憶ではこの一ヶ月ほどお目にかかれていない。病に伏しているのではとの想像をしてしまうが、チリンチリンおばさんの元気な姿に早く会いたい。蛇足になるが、小生は以前に一度だけ、おばさんがスクッと直立した姿を見たことがある。